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『食べて、祈って、恋をして』 イマジナリー、人生トラベルのすすめ。

新型コロナウイルスの影響で外出自粛の要請が続く日々。おうち時間を充実させるべく、色んな本を読んでいます。
『食べて、祈って、恋をして』は、著者のエリザベス・ギルバートの自伝的小説で、数年前には映画化もされた作品。

ニューヨークで小説家をしていて、その気になれば1年間海外をまわりながら仕事をしながら過ごすこともできる、ハイソサエティな白人女性。恵まれたマジョリティであることが当たり前な一女性として思うと、その先入観で彼女の苦しみや懊悩についても、どこか冷ややかに見てしまいそうになるのですが、読み進めるうちに、そんなことは読書する楽しみのはるか遠くへいってしまい、主人公の心と体の巡礼の続きが、気になってしかたなくなります。

正直に書くと、文中ところどころで鼻につくところもあるのですが、主人公はリッチで気前がよく、情が深くてまっとうな生き方への信仰をもつ気のいい女性です。でも多分、同じクラスにいても友達にはなれない。根っこで自己肯定感の高い陽キャっぷりにイライラしそうだから。

とはいえ、さまよえるニューヨーカーである自分をフラットに、理性的に、ユーモアをもって文章にしていて、読んでいると彼女と一緒に旅をしながら、彼女の目や耳や鼻や舌を通じて、共に学び成長をしているような気持ちになってきます。
それは勿論幸せな錯覚なのですが、そんな錯覚を読者もおこす著者は、読書というイマジナリー・トラベルの案内人としてとっても優秀です。(繰り返すが友達にはなれない。)

絶望に陥り、神に祈り、自分と向き合い、他人と関りながら、少しずつ強さと心の平安にむけて歩みをすすめていく主人公の勇気や幸運には、冒険小説を読むようなワクワク感と、「あなたも大丈夫」というポジティブなメッセージがあります。

本というものは、文章の連なりで、その文章というのは単語が並んでいるだけ。
それは事実なのですが、その単語が並んでいるだけ、という事実を超えた物語の力を覚えさせてくれる小説です。
閉じこもらなくちゃいけない日々の、イマジナリー人生トラベルにお勧めします。

「ありのままの真実と、詩的な真実が存在するように、人体においても、ありのままの解剖と、詩的な解剖が存在する。
目に見えるものと、目には見えないもの。前者は骨と歯と肉で出来ている。そして後者は、エネルギーと記憶と信仰で出来ている。しかしどちらも同じように真実だ」
(作中より、好きな個所)




↑こちらは原作小説、↓は映画版になります。映画は観たことがないのですが、自粛を機会に観てみようかな。

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2020-04-05 : 本の話 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

西加奈子さんの黄色いゾウ。

「この人の本、絶対ワカヌちゃん面白いと思うの!」
と、劇団劇作家の篠原久美子先生にすすめられて手に取った、西加奈子さんの本。
『黄色いゾウ』というタイトルにひかれて西加奈子デビュー最初の一冊に選んだのですが、面白いのはもちろん、滋味の深いお話で、篠原先生の慧眼はさすがでした。

何気ない、でもちょっと不思議な、地に足がつききらない日常を生きている夫婦、ムコさんとツマさん。
ツマさんの視点と、ムコさんの日記で綴られていく和かそのものといった日常が、物語がすすみにつれて、何か薄い氷のようなものの上にのっていたことに気づかされる。
こう書くと不穏なサスペンスタッチのストーリーだと誤解されそうだけど、全然そんなことはない。ただ、ほとんどの人にとって、生きているということは、どれだけ穏やかな日常のなかにいても、とても怖くて不安で孤独なことなのだ、という当たり前のことを書いているにすぎない。

この物語を読んで思ったのは、今、目の前にいる人と共に生きる、日常を丁寧なマフラーのように編んでいくことの、困難さと尊さだ。自分もそうなのだけど、どうかするとすぐに、目の前のことや人よりも、過去に目をむけて繰り言のような考えをもてあそんだり、未来を思い煩いすぎたり、目先の楽な選択を助けてくれるファンタジーに閉じこもってしまう。

『黄色いゾウ』は、大切な人のために自分の孤独や弱さを、それぞれ別々の方法で、でも手を取り合って乗り越えていく夫婦の話だけれど、そこにスペクタクルはほとんどない。だけど、ツマさんとムコさんのような、平凡で無名で小さな人たちの、世界を変えることはない頑張りが、なんというか、この世界の健やかさをつないできたのだろうな、と思う。

「生きていくことは大丈夫」というエールを、小説の形でわけてもらえるようなそんな一冊だった。

2019-06-29 : 本の話 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

「ニートの歩き方」のニートじゃない人へのススメ。

phaさんの著作に最近注目しています。
クレバーだけど目線がフラットで、生き方のヴァラエティに寛容だけど、選択のリスクや責任に関して偽の甘さを喧伝しない。
この本もとても面白かった。

たとえば「ニートは自己責任か?」という章では、現代社会での階級の再生産の問題点や、人類史において「平等」という概念がどのように生まれ発展していったのかを書きながら、社会的な弱者(ニートや低収入の人々など)を謗る風潮に疑問をなげかける。

217ページにある
「なんでも自己責任だということにしてしまうと個人が抱えるものが大きすぎてしんどくなってしまう。自分を責めすぎて自殺してしまう人も出る。だから、誰が悪いかを考えるよりも、もうちょっと「なんか知らんけどまあそういうこともあるよね」というくらいで流してしまえたらいいなと思う。(中略)あとまあ、頑張るとか能力があるとかそんなこと以前に、頑張れなくて能力がなくても人間は生きていていいと思うんだよね。人間ってそれくらい幅の広いものだし、そうでないとたくさんの人間がいる意味がない。」
「ただ、「世界にはどうしようもないことが多いので、うまくいかない理由を全て自己責任にかぶせるのはおかしい」と思うけれど、それは「自己責任は全くないので何も頑張らないでいい」「俺は悪くない」「全部親や社会が悪い」ということじゃない、と慌てて付け加えておきたい。(中略)全部自分の責任でかぶってしまうとしんどくて潰れてしまうけど、全部自分に責任がないって感じで放り出してしまってもそれはそれであまり良い人間にはならない気がする」

ニートやそれ以外の人々、そして皆の生きている社会まで目配りが広いし、何より著者のphaさんの語り口がいいんです。
この方はいわゆる「学歴が高い」人なのですが、たぶん偏差値がよいというだけでなく、本当に頭がいい人なんだと思う。

努力して何かを得る、目標を達成するって素晴らしいことなんだけど、
「こんなに頑張った自分」
「頑張って手にいれた成果」
に固執してそれを手放せなくなると、生きていくのに邪魔なプライドが生まれたり、頑張って手にしたその時点の結果や自分自身をアップデートしていけなくて行き詰る。
Phaさんは京都大学というレベルの高い学府を卒業されていて、そのことは簡単に鼻にかけたり、他人に対してマウントをとる武器に出来てしまうと思うし、自分と同じ成果をだしていない他人に冷たくなることだってあるだろう。だけど著書のなかでは自分をことさら誇るでも変に卑下するでもなく、変なプライドやねじれたところがない。

この著作も、ニートをするのに大事な情報や心構えの他、ニートに向いていない人への言及もされていて、情報量が多いのにとても読みやすい。
それはphaさんが、書いている自分ではなく、この「ニートの歩き方」という本を必要としている読者のほうを向いているからだと思う。

実際にニートという生き方を極める人の数は多くないかもしれませんが、ニートを目指していなくても、「今なんとなく毎日が狭苦しい」という方は、読んでみると気持ちの風通しがよくなりそうです。

2019-02-28 : 本の話 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

すごく今さら、『夫のちんぽが入らない』。

すごく今さらなのですが、『夫のちんぽが入らない』読みました、結構前に読んでました。
途中で過呼吸になりました…。

時々おこる、自分のこのステータスを「水族館」と呼んでいるのですが、処理しきれない感情の水位が上昇して一定値を超えると、自分の周囲が水になったように息が苦しくなります。
作家の端くれとして、「水族館」「アクアリウム」とロマンティックな感じでよぶことに腐心していますが、いかんせん苦しい。肺が縮まったように、息をしても空気がはいっていかなくなります。

「アクアリウム」の外側は真っ青で、さながら夜の水族館で、空っぽの水槽に見世物にもならない自分があやまって落ち込んで、ぶくぶくもがいている感じ。もうこうなったら時間と共に暗い水がひいていくのを待つか、自分が息苦しさに慣れるしかない。
この著作の「私」のことを、自分に似ているとも自分だとも思わなかったけれど、知っている、とは思った。この「私」はステータス:水族館の私だと。
私はセックスについて悩んだことはそんなにないけれど、「入るはずのもの、入って当たり前のものが入らない」に通じるあれこれは、形を変えて何度も人生に立ちふさがってくる。
夫のちんぽが「入らない」この本の「私」は、当たり前の世界に「入れない」。
皆が素晴らしくまっとうだという世界の一部になれなくて、なれない自分をどう生かすかを、たくさん血を流したあとに選択する。
「私は夫を愛しているんです、でも彼のちんぽが入らないんです。こんな残酷なことってあります?」
という内容の作中の言葉が響く。
そう、こんな残酷なことはない。にも関わらず、その残酷な世界で生きていくことは素晴らしいことすぎて、私はなかなか手放せない。
1日1日を、入らない、入れない自分として生きることを選ぶ、地味な命がけの戦い。戦友の手記を読むように、酸欠になりながら、あとがきまでしっかり読んで、敬意をこめてページを閉じた。

2018-10-31 : 本の話 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

『とびはねる思考』(東田直樹)を読んで

会話のできない自閉症の筆者による本。
自閉症の肉体のなか、頭の中でおきていることが平易な文章で書いてあって、私にもうなずけること、共感できることがたくさん。

何気ない言葉や疑問が、ちぢこまった心を鮮やかにする。
自分の行動や口からでる言葉をコントロールできない時があること。
自分に起きていることをわかってもらえない悲しみ。

東田さんの書く文によって、自分の中にもあるそれらに言葉が与えられて、深層意識から剥がれた汚れみたいに浮き上がってくる。自分で自分の特性にふりまわされて疲れてしまった時に水のように沁み込んできて、乾いて動いてなかった心の一部が息を吹きかえしたような心地になる文章。

「人でなくてもいいと感じる瞬間が、僕に活力を与えてくれます」という一節には、自分のなかにある感覚に、他人がここまでピタリとした言葉をあててくれていることに感激した。

以前、障碍者施設で、自分の名前を答えられない入所者を選んで殺害する男がいた。
その男の考えでは、自分の名前も言えないような人間には心も頭も、生きている価値もないモノだったのだろう。
でも、喋れないことは、感じる心や考える頭がないこととイコールではない。
この本の著者も、発話でのコミュニケーションはできないが何冊も本をだすだけの言葉をもっている。

表現の方法が変わっていたり発信する術がないせいで、世界や誰かにむけてひらかれることがないまま、潰えてしまう言葉や思いはいくらでもあるだろう。
だけど生きる命のなかで何が起きているのかなど、その命の外側にいるものが簡単に決めたりわかったりできることではないのだ。

口のきけない東田さんの書いた本を読むと、普段ついつい忘れてしまうシンプルだけど大切なことを思い出す。
しっかりとした重しになってくれる本だと思う。



2018-01-17 : 本の話 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
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プロフィール

ものを書く縮小 劇作家のモスクワカヌです。
短編・音楽劇・ラジオドラマ・Webコラム等を書いております。 ペンネームの由来は、以前住んでいた某首都+本名。
演劇ユニット「遊戯ヱペチカトランデ」の主宰もしてますが。団体は現在お休み中です。
HP:「遊戯ヱペチカトランデ」
BLOG:「дача берёза ダーチャ・ベリョースカ」
劇団劇作家所属。劇作家女子会。メンバー
お問い合わせはyugi.mw☆gmail.com(☆を@に変えてください)にお願いします。

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前回の公演

遊戯ヱペチカトランデ
第弍回公演

MGトリコロール縮小
Musical
Mademoiselle Guillotine
~マドモアゼル・ギロティーヌ~

strong>2013/9/5(木)~9/9(月)@日暮里d-倉庫
詳細はこちらから。

過去の公演

公演は無事終了しました。ご来場ありがとうございました。

☆作家/演出として参加。

劇作家女子会×時間堂presents
劇作家女子会!
期間:2013年6月13日(木)~16日(日)
※演劇公演です。
会場:王子小劇場
女子会縮小版 劇作家女子会!HP
劇作家女子会!BLOG
遊戯ヱペチカトランデ公演
「The Giris next Door」
~おんなの子、
藪をつつけば、蛇がでる。~


2011年12/8(木)~12/12(月)
公演の詳細はこちらから。

趣向ワカヌ公演
縲発表表縮小版

「発表~いま、ここ。~」
まだ、ゆれてる。

作/演出
オノマリコ モスクワカヌ
演目/出演
リーディング『いま、ここ』
公演の詳細はこちらから。

蜻蛉玉チラシ完成縮小
「蜻蛉玉遊戯」
2010年9/1(水)~9/5(日)
公演情報はこちらから。

☆演出助手として参加。

2013年3月23日~27日
@座・高円寺
世の中と演劇するオフィスプロジェクトM
「ハルメリ2013」
台本:黒川 陽子
演出:丸尾 聡

2011年8月27日~28日
@スペース・ゼロ
非戦を選ぶ演劇人の会
「核・ヒバク・人間」
構成台本:非戦を選ぶ演劇人の会
演出:鵜山 仁

2011年3月9日~15日
@中野テアトルBONBON
オフィスプロジェクトM
「死刑執行人~山田浅右衛門とサンソン~」
作演出:丸尾 聡

2010年12月
北京蝶々「あなたの部品 リライト」
作:大塩 哲史
演出:黒澤 世莉(時間堂)
詳細はこちらから。

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